利用者さんから「訪問介護のヘルパーさんに病院に連れて行ってもらいたいんです」と言われることがたくさんあります。
ヘルパーに通院介助をお願いすることについて「できないわけがない」と思い込んでしまう方がいるのですが、実は介護保険制度上、話はそう簡単ではありません。
説明に苦労することがよくありますので、わかりやすくこの通院介助の仕組みについてお話させていただきます。
要支援の方の通院介助について
ただ、利用者さんが想定している通り「介護保険を使って安く利用できるのか」が問題となります。
大前提として、要支援1・2の方は通院介助の利用が難しいと認識しておいてください。
その理由は、要支援の方のケアプランの仕組みにあります。
要支援の方の場合は、週に1回、2回、3回という決まった回数の訪問介護でケアプランを立てます。
サービスを受けられる時間に関しても、基本は1時間以内です。「この週だけヘルパーが来る回数を増やしてほしい」というのも難しければ、「1時間以上の長いサービス」も想定してケアプランは作成されていません。
要支援の方の場合、週何回ヘルパーが自宅に来るのかによって介護報酬が決まっており、料金が月額固定制になっているのです。
利用者都合のキャンセルで利用する回数が減っても安くなることはないですし、もともと想定している回数以上にヘルパーが入ることもありません。
この仕組みに通院介助を当てはめてみると、「毎週決まった曜日に一時間以内に帰ってくることができる病院」であれば、通院介助の利用は可能です。
しかしそうでない場合、「今日ちょっと体調が悪いから病院連れて行って」などのイレギュラーな希望は通りません。
どうしても通院介助が必要という方の場合は、あとでお話する「自費サービス」の利用になります。
要介護の方の通院介助の事例
要介護の方の場合は、比較的自由にケアプランを作成できますので、月に一回であろうが半年に一回であろうが、時間が長くなろうが、訪問介護での通院介助は可能です。
しかし、通院介助をしている間、すべての時間を介護保険の「身体介助」として介護保険を適用することはできません。
この点について、事例を使って説明しますね。
通院介助の事例
例えば、ヘルパーが車椅子の利用者さんと病院に行くとします。
車椅子を押して10分かけて駅に着き、そこから10分電車に乗り、降りて5分歩いて病院に着きます。
そこで30分待ち時間で、呼ばれて10分間診察を受けてさらに会計待ちで10分。
帰り道は、来た時と同じルートで帰ります。
このとき、通院介助にかかった時間は、100分です。
しかし、介護保険上では「身体介護が発生しているのは歩いている往復30分だけで、電車に乗っている時間や診察を待って座っているだけの時間は身体介護をしていない」という解釈になります。
つまり、「身体介護」として算定できるのは30分で、介護報酬は「身体1」となります。
病院内でトイレ介助をした場合などは算定できますが、これも市町村(保険者)によっては、病院内はすべて医療保険で賄うべきとして、全く算定できないところもあります。
ということは、介護保険の算定ができない時間は、ヘルパーがただ働きになるのでしょうか?
以前はそういった事業所が多かったのですが、現在は「自費サービス」を組み合わせて、ヘルパーにきちんと賃金を保障する事業所が増えてきました。
自費サービスとは
通院介助だけでなく、決まりごとの多い訪問介護では「保険適応できない場合」でもヘルパーを利用するため、自費サービスを設定している訪問介護事業所がたくさんあります。
大掃除や草むしりなどでも利用されることがあるこの自費サービス、ようするに「保険が適用できない部分は実費で支払ってくださいね」という制度です。
介護保険適用のサービスと自費サービスの料金について比較してみます。
介護保険適用のサービスの場合、例えば身体介護は1時間だいたい400単位で、これを実費で計算すると約4000円になります。
一方で、自費サービスは1時間2500円~3500円くらいで、少し安く設定している事業所が多いです。通院介助の自費だけ、別の料金設定にしているところもあります。
つまり、先ほど説明した事例で言いますと、ヘルパーの拘束時間は100分でしたよね。
そのうち30分は介護保険で請求ができるので、残りの70分は自費で利用者に請求することになります。
介護保険が1割負担の方の場合、介護保険での支払いが約400円、残りの70分は自費での支払いになります。 合わせるとまとまった額が必要になってきますね。
以上、介護保険での通院介助の仕組みについてお話させていただきました。
この説明をすると、「通院介助はすべて保険が適用できて安いはずだと思っていたのに、そんなにお金がかかるの?」と驚かれる方が多いのですが、ヘルパーにきちんとした賃金を支払うためだと考えていただき、いざというときに驚かないよう、頭の片隅に入れていただきたいと思います。